博多の方言は全国的にも人気が高く、「可愛く聞こえる方言」とか「女の子が使うと可愛い」などと言われていますよ。
方言女子では上位にランクインすることの多い博多弁ですから、知名度も高く、コテコテの方言という感じではなくなっているのかも知れませんね。
それでもやはり「え?」と驚くような方言もあります。
今回の「おひめさん」と「おとのさん」がそうです。
「おひめさん」と「おとのさん」は「お姫様」と「お殿様」のことだと思うのが一般的だと思います。
ところが博多では、違うものを指す言葉として使うことがあるようです。
「おひめさん」と「おとのさん」は博多では何を指しているのか、調べてみました。
「おひめさん」と「おとのさん」とは
博多の言葉で「おひめさん」と「おとのさん」とは、目にできる「ものもらい」のことなのです。
「ものもらい」という呼び方が正式なのかどうかわかりませんが、目薬の効能に「ものもらい」と書かれていることから、全国的に通じるはずです。
ものもらいのことを「おひめさん」や「おとのさん」と呼ぶのは、博多だけではなく、熊本など九州の一部地域です。
なぜ「おひめさん」と「おとのさん」という2パターンの呼び方があるのかというと、どうも上まぶたと下まぶたで分けているようです。
上まぶたにできるのを「おとのさん」と呼び、下まぶたにできるのを「おひめさん」と分けています。
ただ、現在では上下とも「おひめさん」で通用するようになっているのは、男女平等の世の中になったことと関係あるのでしょうか。
上が「おとのさん」、下が「おひめさん」と区別されるのを快く思わない人がいても、今の世の中では不思議とは思えません。
「おひめさん」や「おとのさん」の由来
ものもらいの呼び方は日本全国でバラバラです。
色んな呼び方があるので、全て集めるといくつあるのか想像できません。
しかし、なぜ博多をはじめ九州の一部地域ではものもらいを「おひめさん」や「おとのさん」と呼ぶようになったのでしょうか。
その由来を調べてみると、他の地域の呼び方と共通する部分があったので、それがヒントではないかと思いました。
九州ではものもらいのことを「おきゃくさん」と呼ぶこともあるようですし、沖縄では「おともだち」と呼ぶこともあるそうです。
お友達、お客様、お姫様、お殿様と、雑に扱うことができない存在をものもらいの別の呼び方として使っているのです。
その理由は、丁寧に呼ぶことで早く消えて欲しいという希望が込められているとも考えられます。
また、丁寧に接しなければいけない存在として呼ぶことで、自分から遠ざけてしまいたいという気持ちの表れが由来だという説もあります。
その反面で、九州の中ではものもらいのことを「いんのくそ」と呼んでいた地域もありました。
「いんのくそ」は犬の糞が語源になっているそうなので、「おひめさん」や「おとのさん」とは真逆ですよね。
丁寧な言葉で自分から遠ざけようとするのか、その正反対の非丁寧な表現で遠ざけようとするのかの違いなのだと考えられます。
ものもらいの呼び方イロイロ
目にできる小さなできものは、麦粒腫と呼ぶのが正しいのだそうですが、一般的には「ものもらい」は定着しています。
日本全国でも「ものもらい」で通じるはずです。
ただ、意味として通じるとしても実際には違う呼び方をしているところもあります。
たとえば関西では「めばちこ」や「めいぼ」と呼ぶ人が多いようです。
たしかに私の周りの関西出身者は「めばちこ」と言っていました。
割合としては、ものもらいが70%、めばちこ10%、めいぼ10%、その他が10%という感じでしょうか。
少数派のその他では「めぼ」や「めっぱ」「めんぼう」や「めこじき」などがあります。
今回ご紹介した「おひめさん」や「おとのさん」などは、ごく限られた地域だけで残っている呼び方ですが、若い世代は意味は分かるけれど使わない人が増えているようです。
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まとめ
ものもらいの呼び方を細かく調べると、20以上はあるようです。
なぜそんなに色々な呼び方があるのかは不明です。
「おひめさん」や「おとのさん」は色んな呼び方の中でもかなり印象が強いので、もっと知られていても不思議ではないと思うのですが、消えつつある方言なのかも知れません。